株式会社AKISIA

ベンダー金型配置で歩数を半分に:「気合と根性」から「頭を使う」へ

生産性向上
2026/05/31

「段取りに時間がかかる」

「ベンダー周りで作業者が何度も歩き回っている」

「もっと早く動け、と現場に発破をかけても、改善されない」

板金工場でよく耳にする悩みです。

この悩みを解決するには、現場の作業者にもっと頑張ってもらうこと――ではありません。むしろ逆です。私が伝えたいのは、現場の作業者は「気合と根性」で早く動こうとしがちですが、本当に必要なのは「頭を使って楽をする」ことを覚えてもらうこと、です。

今回は、私がコンサルティング現場でアドバイスしてきた「ベンダー金型配置の見直しによる歩数削減」を題材に、具体的な改善アイデアと、それ以上に大切な「考える現場」の作り方をお話しします。

1. なぜベンダー段取りで「歩数」が伸びてしまうのか

ベンダー(プレスブレーキ)の段取りを観察していると、作業者が驚くほど多くの歩数を使っています。原因の多くは、次のような現場の状態にあります。

原因①:使用頻度に関係なく金型が並んでいる

これが、最も多い問題です。「毎日使うV幅」と「年に数回しか使わない特殊金型」が、同じ棚に並んで配置されている。よく使う金型ほど奥にあったり、逆に滅多に使わない金型がベンダーのすぐ近くにあったり――こうしたケースは、本当に多く見かけます。

結果として、作業者は段取りのたびに金型ラックの端から端まで往復することになります。

原因②:狭い工場で「近くに置けない」事情がある

中小の板金工場では、敷地の制約から、ベンダーのすぐ近くに金型ラックを置けないことがあります。「あの場所しか空いていなかった」という事情で、不本意な配置になっているケースです。

こうした制約があると、根本的な配置変更が難しく、「仕方ない」と諦めてしまいがちです。しかし、後ほどお話しするように、工夫の余地は必ずあります。

原因③:「動線」がそもそも設計されていない

そして根本的な問題として、作業者の動線そのものが設計されていない工場が、ほとんどです。「とりあえずここに置いた」「以前からこの配置だった」――こうした経緯で固定化された配置を、誰も疑問に思わなくなっている。

結果、作業者は「歩く」「探す」「戻る」という、付加価値を生まない動きに、毎日多くの時間を費やしています。

2. 改善アイデアの考え方――「ABC分析」と「動かない段取り」

では、どう改善するのか。私が現場でアドバイスしてきた、効果の高い2つのアプローチをご紹介します。

アプローチ①:使用頻度でABC分析、高頻度金型をベンダー近くに集中

最も基本で、最も効果が大きいのが、ABC分析による金型の再配置です。

過去半年〜1年の使用履歴をもとに、すべての金型を3区分します。

  • 【A】よく使う金型(全体の上位2割で、使用回数の8割を占める)
  • 【B】時々使う金型
  • 【C】滅多に使わない金型

そして、Aランクの金型を、ベンダー本体に最も近い位置、作業者の手が届く高さに集中させます。Bランクは少し離れた位置、Cランクは奥や上段でも構いません。

これだけで、日常的な段取りの歩数は劇的に減ります。「使用頻度の8割が、半径数歩以内で完結する」状態を目指してください。

アプローチ②:細かな金型は「ブレーキプレスに収納ポット」で一歩も動かない

もう一つ、私が実際に提案し、実践していただいた具体例があります。

細かな金型を、ブレーキプレス本体に収納ポットを取り付けて格納する――この方法です。

プレスブレーキの架台や横の空いたスペースに、小さな金型を入れられるポット(収納ボックス)を取り付ける。すると、よく使う細かい金型は、作業者が機械の前に立ったまま、一歩も動かずに取り出せるようになります。

「金型ラックを近くに置けない」という制約のある工場でも、機械本体に必要なものを集約することで、動線そのものをゼロにできるのです。

改善は「現場の人と一緒に」考える

ここで強調したいのは、こうした改善は、経営者やコンサルだけで決めてはいけないということです。

実際に金型を扱うのは、現場の作業者です。彼らが一番、動線を知っています。「この金型はあそこに置いた方が便利」「ポットの位置はもう少し低い方が取りやすい」――こうした生の声を聞きながら、一緒に配置を決めていく。

上から押し付けた改善は、必ず形骸化します。現場と一緒に作った改善は、必ず定着します。

3. 本当の効果は「歩数削減」ではない――『頭を使って楽をする』を学ばせる

ここからが、私が最もお伝えしたい本質です。

金型配置の見直しで歩数が半分になれば、確かに段取り時間は短縮されます。しかし、私はそれを「副産物」だと思っています。

本当の効果は、現場の作業者が「頭を使って楽をする」ことを学んでくれることです。

「気合と根性で早くする」現場の限界

多くの板金工場で、私は次のような光景を見てきました。

段取り時間を短くしようとして、作業者がとにかく走り回る。汗をかきながら、息を切らしながら、必死に動いている。「もっと早く!」と現場リーダーが声をかける。

確かにその場では時間は短くなるかもしれません。しかし、これは持続可能ではありません。作業者は疲弊し、ミスが増え、長期的には離職にもつながります。何より、「気合と根性で頑張る」発想からは、本当の改善は生まれません。

「楽をするための工夫」こそ、本物の生産性向上

一方、金型配置を工夫したり、収納ポットを取り付けたりして、自然と歩数が減る現場では、作業者は走り回りません。涼しい顔で、淡々と段取りを終えます。

こうした「楽をするための工夫」を経験した作業者は、次の改善のアイデアも自分で考えるようになります。「ここも工夫すれば、もっと楽になるな」と。

これこそが、長く続く改善体質の土台です。「頑張る現場」より、「考えて楽をする現場」の方が、はるかに強いのです。

経営者の役目は「楽をする工夫」を奨励すること

経営者として大切なのは、「もっと頑張れ」と言うことではありません。「どうすれば、もっと楽にできるか考えよう」と、現場に投げかけることです。

「楽をする」というと、サボることのように聞こえるかもしれません。しかし、本当の意味での「楽をする」は、「ムダな動きを徹底的になくす」ことであり、これは最高の改善活動です。

4. 実践ステップ――今日から始められる4つの行動

最後に、ベンダー段取り改善を始めるための、具体的な実践ステップをご紹介します。

ステップ①:作業者の歩数を「1回だけ」測ってみる

まずは現状を見える化します。スマホの万歩計でも構いません。標準的な段取り作業を1回だけ、歩数をカウントしてみてください。

「こんなに歩いていたのか」と、現場も経営者も驚くはずです。数字で見ることが、改善の第一歩です。

ステップ②:金型の使用頻度をABC分析する

過去半年〜1年の生産履歴から、金型の使用頻度を集計します。エクセル一枚で十分です。

A・B・Cにランク付けし、現状の配置と比較する。多くの場合、「Aランクが奥にある」「Cランクがベンダー近くにある」という、配置のズレが見えてきます。

ステップ③:現場の作業者と一緒に配置を考える

ABC分析の結果を持って、現場の作業者と「どこに何を置くか」を一緒に決めます。経営者は意見を聞く側、決めるのは現場――この姿勢が大切です。

「機械にポットを取り付ける」「ラックの段を変える」「不要な金型を処分する」など、具体策が次々と出てきます。

ステップ④:効果を「歩数」で測り、現場と分かち合う

改善後、もう一度歩数を測ります。「半分になった」「3分の1になった」という結果を、現場と一緒に喜ぶ。

この成功体験が、次の改善への意欲を生みます。「頭を使って楽をする」ことの価値を、現場が体感する瞬間です。

まとめ

ベンダー金型配置の見直しは、段取り時間の短縮という分かりやすい効果がある改善です。しかし、その本当の価値は、現場が「頭を使って楽をする」ことを学べる、最高のトレーニングになることにあります。

経営者として押さえておきたいポイントを、最後に3つにまとめます。

  • 使用頻度のABC分析と「収納ポット」で、歩数は実際に半分にできる
  • 改善は必ず「現場の人と一緒に」――上からの押し付けは形骸化する
  • 本当のゴールは歩数削減ではなく、「気合と根性」から「頭を使う」現場への転換

「もっと早く動け」と発破をかける経営者の元では、現場は疲弊し、いずれ離れていきます。「どうすれば、もっと楽にできるか?」と問いかける経営者の元では、現場は考え、工夫し、長く働き続けます。

ベンダー周りの数歩を減らす――それは小さな改善に見えるかもしれません。しかし、その背後にある「楽をするために頭を使う」という発想の転換こそが、長期的に強い工場を作っていくのです。

板金工場の段取り改善、ベンダー金型配置の見直し、現場主導の改善文化づくりでお悩みの方は、ぜひ株式会社AKISIAにご相談ください。現場と一緒に「頭を使って楽をする」仕組みを作る伴走支援をいたします。

お問い合わせはこちら

著者プロフィール

山田 昭四郎
山田 昭四郎代表取締役
板金加工専門の経営コンサルタント
株式会社AKISIA代表。メーカー工場長として長年培った加工現場の経験を活かし、経営者と同じ目線で利益最大化を支援。5S・DX・設備投資・人材育成の最適解を導く「現場改善のナビゲーター」として伴走します。愛知から製造業の未来を一歩ずつ。
工場見学でよく聞かれる質問TOP10